無性愛者に生まれたかった

全性愛者で複数愛者である。無性愛者とは正反対といってもいい。

シス女性で、一人の男性とパートナーシップを結んでいるので、今はパッと見ただのノンケにしか見えないことだろう。

パートナーは前述のセクシュアリティについては理解してくれており、嫉妬心も特段強い方ではないようなので、現状特に問題は出ていない。

今はこのパートナー以外に恋愛関係にある相手はいない。できれば今後も出てこないでほしい。何故なら大変だから。

既に一人と相思相愛で良好な関係にあるのに、更なる他者との悶着で浮き沈みするのは本当にアホくさい。相手は一人で充分だと思っていても、好きになる時はなってしまう。勘弁してほしいというのが本音である。

 

生育環境の問題で愛着に課題があり、特に恋愛によって情緒が乱れやすい。

人を好きになることがなければ、感情に振り回されることもないと思った。

仲が良かった高校の同級生がFtXで、特定のグループに所属することはなく、様々なグループを自由に渡り歩いていた。それでいて、どこにいっても歓迎される人たらしっぷり。理性が強く、感情に振り回されることはないように見えた。その全てが私にとって、なりたくてなれなかった憧れの姿だった。

 

いや冷静に考えれば別に無性愛者全員がそうなわけではないだろう。

仮に自分が無性愛者だったとしても、その子のようになれていたわけではない。そこだけじゃなくて他の全ても違う。

それにしても、自分の場合は愛着の課題が恋愛という形で表出しがちだが、同じような方向で愛着に課題のある無性愛者の場合はどのような形になるのだろう。そもそもこういうタイプは無性愛者にはならないのかもしれないが。もう少し当事者と話してみたい。

 

複数愛者という概念を知ったことで自分もそうなのではないかと自覚したのは少し前のことだが、今にして思えば昔からずっとそうだった。

中学時代に付き合っていた彼女と別れないまま高校で男子と付き合い出した(高校が別だったので多少疎遠にはなったが別に嫌いになったわけでもなかったので別れるという発想がなく、双方に紹介し合意形成していた。二人とも普通に受け入れていたが今思うとすごいな)し、その彼のことは結果として10年引きずるくらい好きだったが、付き合い始める前から付き合っている間も振られて悶絶している間もその後まで先述のFtXの子のことはずっと好きなままだった。感情に波はあれど。そして数年ののちその子に振られて数日寝込み、その時既に長い付き合いで事情も知っているまた別のパートナーに介抱してもらっていた。複数人を同時に好きになる性質をこの時ほどバカバカしいと思ったこともない。

なお、中学の時にどういう話の流れか、特段親しくもないギャル系のクラスメイトに「二股ってどう思う?」と聞かれて「全員が了承してれば別にいいんじゃない」と答え、「大人だね」(?)という返事をもらったという記憶がある。その頃から既にポリアモラスな価値観の人間だったということか。

 

元々恋愛感情が友情と地続きになっているタイプで、自分でも区別がつきにくい。友情と恋愛感情の境はどこにあるのかと昔から思っていたけど、どうやらかなり曖昧な方らしい。

(それを見極めようとする過程で、参考に他の人の恋愛観を訊ねることが増え、すっかりそれが面白くなってしまった)

しかもその上自動的に一人に限定されるということはないし、性別で絞り込まれることもない。つまり世間で言われる判断基準が殆ど通用しない。これでは自分で分からなくても仕方ないだろう。友達にも独占欲は湧くし嫉妬もする。そういうもんじゃないのか? そのくらい親しい相手とは身体接触も不快でない、むしろ触れたい。そんな調子である。

友人として親しさが上がっていけば、全員そのまま一直線に恋愛対象に収束していってしまう。多分自分の恋愛観はそういうことなのかもしれない。

実際、常にその時のパートナーが一番の親友という感じで、何を一緒にしても楽しいし何でも話せる。これは今まで付き合ってきた中で例外はない。それに比べると、他の友人にはどうしてもいくらか気兼ねしてしまう。かつては交際関係にあり、それをやめてからも今に至るまでずっと一番近しい友達として付き合いのある中学時代の元彼女でさえも、交際関係になくなってからはその頃のように用事無くやり取りすることはなくなった。これは自分の中で「付き合ってるんでもなければそういう風に寄り掛かってはいけない」という感覚があるせいもあると思う。相手も自分にコミットしてくれている関係でなければ、用事も無く話しかけたり頼ったり甘えたりしてはいけないと認識しているらしい。これも何というか、あまり器用な/健全な対人関係様式ではない気がするので改善した方がいいのかもしれないが。

 

少し前まで3人で付き合っていたが、結論からいうとかなり大変だった。

私のことを好きな2人と同時に付き合っていたのだが、複数人と付き合うのは、やったことがない人が「いいな〜」とか「ズルじゃん」とか思うような良いものではない。普通に難しい。当たり前だ、一対一でパートナーシップを結ぶのだって真面目にやればかなり大変な作業なのだから、その頭数が増えれば単純に足し算しても増えるわけだし、実際には3人の間でもっと複雑な関係性がはたらくのでそんな単純な式では表されない。1+1が2ではないのだ。それ以上人数が増えることは、とてもじゃないが考えたくはない。

また、私の考えでは、相手2人が私のことを好きということは私が一番気を遣って関係を回さなければいけないということだ。構図としては私がホストで相手2人がゲストみたいなものなわけで、そういう意味でも大変なのは当たり前だ。

 

複数愛者は、単数愛者からすると加害者だったり勝者だったり強者だったりするかのように言われがちだが、少なくとも自分にとっては、こんな性質は無い方がいい。キャパの大きくない人間にとって、好意が募る相手の人数が増えることは負担でしかない。傷付くリスクが増えるだけだ。

 

とにかく、人生の伴侶たるパートナーがようやく現れた今、他に恋愛対象となってしまう人間が現れないことを祈るばかりである。恋愛に振り回されるのはもう二度と御免だ。